備忘録

『モブサイコ100』という最高のラストを迎える漫画

はじめに

 『モブサイコ100』という漫画を読んだことがあるか。もしここで『NO』とか『まだ途中』と答えたならば早急にマンガワンを入れるか本屋に走るか電子媒体で単行本を買って読むべきである(最終巻の16巻がなかなか見つからないらしいので取り寄せがおすすめだぞ!)。

 ちなみにゴリッゴリの少コミ派の母上に読ませたら感想が『絵が下手』しか返ってこなかった。解せぬ。

 この記事そのものが未完走者向けではないが、たまたまこのページを見てモブサイコを知った人に向けて言うのであれば、モブサイコとは『道徳の教科書を嘲笑う現実的道徳的物語』だ。綺麗事だけを宣う理想という甘味料だらけの道徳の教科書が、泥だらけで前に進むその意志の美しさを尊さをなによりどうしたって醜く汚い現実と『綺麗事』との折り合いをも語るモブサイコに置き換わる日もそう遠くないはず……だ。しめしめ。

 

 ここから先は本格的にモブサイコを全16巻、最後まで読み切っている事が前提となる。のでまだ読んでいない人は回れ右すること。完走して覚えてたら読みに来てね。忘れてても怒りはしないけど。もし完走しても腑に落ちなければこの記事はほんの少し、納得の手助けになるかもしれない。

 

そもそも

 そもそも、この記事を書くに至った理由はこんな経緯になる。ここ、読み飛ばしてもらって結構です。

アニメ二期に『ギャグ展開に爆笑できる作品です!(※)』などと書いていた冬アニメまとめサイトがあったなぁ

→家燃えたり最上編とかホワイティとかギャグ展開期待して見た人達から詐欺罪で訴えられてそだな……いまどうしてるんだろ

→検索

→名前を出すのも腹立たしい謎記事がヒットしてしまう

 早い話が事故なんですがね。

 でも終わり方が酷いなどという戯言の記事はあるのに最高の終わり方をしてる!という記事がないなんて癪じゃないですか。ないなら書こうって事です。

 

10/20追記

 ――のはずでした。

 長い期間下書きにいたため公式アカウントのカウントアップが始まり遂に100まで辿り着き――――からのこれですよ。

 

 

 まって無理じゃん!!!(クソデカ大声)

 フォロワーと息も荒い不審者のままスペースで狂ってたりしたのは置いておくとして、そんな朗報来たら何がなんでも書き上げるしかないじゃん?という訳です。

 

 

最終巻(16巻)のあらすじ

暴走した超能力と、モブの告白の結末は…? ずっと好きだった ツボミちゃんの転校を知り、 告白することにしたモブ。 しかし告白に向かう途中、 モブは交通事故に遭ってしまう。 すると、意識を失ったモブの 超能力が暴走して…!? 思春期と超能力の物語、 感動の最終巻!!

 改めてあらすじ見ると全巻のおさらいだよな……?と思いつつも敢えて野暮にこの10行程度に収めようとしなかったのだとしたら英断だと思う。到底語り切るのは無理だと思う。

 

モブサイコの何がそんなにも"最高"か

 オタクたるもの、語彙が追いつかず最高とかエモいという言葉でどうしても済ませがちだし私もそうなのだが何とか無い語彙を捻り出して見た。なので微妙に違くない?とかあっても『アッこいつ語彙が死んでるんだな』と思ってもらいたい。字書きとは……。

 とりあえず最高を構成する要素を6つに分けてみる。

  1. 読み返せば読み返すほど発見がある
  2. 無駄な話が無い
  3. 『保護者』と『子供』の健全な関係
  4. 人と人との関係性と縁
  5. 自己肯定というひとつのテーマへの解
  6. シンプルに物語として面白い

 

1.読み返せば読み返すほど発見がある

 何度読んでも「これってこうでは!?」ということが何度も起きる。こういう現象は恐らく(言い方は悪いが)雑な物語にはそうそう見られない現象だろう。

 言葉の、セリフの一つ一つに意味や目的や役割があり、それに気付いた時脳に電流が走るような、「どうして今まで気付かなかった!」と顔に熱が集まるような感覚。読めば読むほど発見がありその感覚を何度も味わうのだ。

 最近気付いたのは初期の頃と100話の芹沢克也の傘の役割の違いです。

 

2.無駄な話が無い

 連載となるとどうしても途中でグダグダしたりしがちだと思う。或いは途中から最初の話と方向性が大きく変わってしまったり。それが無いのである。モブサイコ100という作品は。

 途中でバトルメインの話にはなる(爪第7支部や爪本部の辺りが特に『バトル漫画』チックなのではないだろうか)ものの、それでも一貫して影山茂夫、ひいては霊幻新隆は対話で通そうとする。

 そもそも『バトル漫画』では無いのだ。モブサイコ100は。

 なんならアニメ二期の公式サイトにも『青春サイキックストーリー』『サイキック青春グラフィティ』と書かれてる。だからといって『サイキック(超能力)モノだから要はバトルモノなんでしょ』というのがそもそも安易だし間違いなのだ。

 

3.『保護者』と『子供』の健全な関係

 エヴァに始まりこの世にはたくさんの『子供がよくわからん何かと戦う』話というのは色々ある。それが自発的に、戦いたくて戦ってるのならいいけども必ずしもそうでは無いのが現実である。つまり戦いたくない子供が大人ないしもっと理不尽な何かで戦わされる――そんな物語に対して『子供は大人に護られて然るべき』と思った人もいるのではないか。特に親となった人は。

 霊幻新隆は口先で解決してきた能力者だ。物語の途中まで誰にでも見えるほど強い悪霊でもなければ見ることすら出来なかったし、本物の除霊案件は影山茂夫に丸投げな駄目な大人の側面も持っている。しかしそれはあくまで一つの側面に過ぎず全てではないことは爪第七支部のドパンチでよく分かっているはずだ。

 一時保護者として超能力など持たない霊幻新隆(駄目な面も持ち合わせる大人)が影山茂夫達(超能力を持つ、しかしただの子供)を護ろうとする――本来はこれが現実でまかり通るべき姿であり、子供を前線になるべく立たせようとしないというのがモブサイコの道徳的側面だと思う。


4.人と人との関係性と縁

 師弟や兄弟、相棒やライバルの関係性の素晴らしさは本編を読んでいれば間違いなく理解できると思うので割愛させていただく。響きだけでも好きでしょう?

 世界というものは、社会というものはどう足掻いても人と人との繋がりで出来上がっている。

 最上啓示でさえ母と、メディアや(良かれ悪かれ)依頼者との繋がりがある。

 鈴木統一郎さえ奥さんと息子である将、傷の面々と面識がある。

 孤高を気取ってもどう足掻いても人との関係は断ち切れない。

 

 それはどれだけ強く傲慢な災厄そのものじみた???%状態の影山茂夫もそうなのだ。

 

 かつて敵だった者が窮地に助けに来る――このシチュエーションが嫌いな人はそうそういないと思うが有り体に言えばそれであり、これに一種の『エモさ』を見出すのはかつて紡いだ縁があるから、それを言葉無くして訴えてくるからだと思う。

 100話において、色々な人物が色々な目的で影山茂夫とぶつかる。

 ある少年は惨敗して勝てないと分かっていながらも。ある男達は目を覚まして就職した自分の職場を守るために。ある男は社会貢献に。男の息子は父親の社会貢献の手伝いに。部活動のメンバーは助けるために。弟は兄を止めるために。ある霊能力者は自分の嘘を精算するために。

 これらの縁を紡いできたのは紛れもなく影山茂夫だ。身内も居れば和解すら叶わなかった相手もいるというのに、だ。


5.自己肯定というひとつのテーマへの解

 現代社会、自己肯定感をメタメタにぶっ叩かれる事が多い。訳の分からんクレーマーやオツムの弱い上司やネチネチうるさい人。

 モブサイコの登場人物は自己肯定が足りない人達が非常に多い。花沢輝気や恐らくエクボも、そして何より霊幻新隆と影山茂夫は特に顕著だ。

 特別ななにかになりたくて、しかし諦めつつも諦めきれなかった霊幻新隆。

 特別な力で弟を傷付けたために『強力な超能力者・影山茂夫』を否定し続け、同時に肯定されたかった影山茂夫。

 街を破壊する影山茂夫に対して霊幻新隆はそれを咎めるでもなく告白をして、師弟関係を白紙にし、そのうえで影山茂夫の持つ二面性を肯定する。誰もが色々な側面を持っているのだ――と。

 霊幻新隆という男のキャラクターを分かっていれば分かっているほどこの言葉は深く響くはずだ。霊能詐欺師の側面も、影山茂夫の『師匠』としての側面も持つこの男だからこそ響く言葉。

 

 悩んだっていい。

 お前はそのままでいい。

 

 きっとたくさんの読者が救われたと思う。

 

6.シンプルに物語として面白い

 実の所これに尽きる。

 上手く伝わったかは分からないが上の5項目を上手く組み込んだ上で最高の終わり方をする、最高に面白い漫画なのだ、モブサイコ100という作品は。

 

※『ギャグ展開に爆笑できる作品です!』出典

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